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2022年1月19日水曜日

職業選択の自由 その1

 

1.意義――なぜ,仕事をする自由は,憲法で保障されるほど重要な権利なのか

 

(1)内容

 

・判例:「職業は,ひとりその選択,すなわち職業の開始,継続,廃止において自由であるばかりでなく,選択した職業の遂行自体,すなわちその職業活動の内容,態様においても,原則として自由であることが要請されるのであり,したがつて,〔憲法221項の〕規定は,狭義における職業選択の自由のみならず,職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきである。」(後述の薬事法事件〔百選92事件〕

・内容:①職業決定の自由(狭義の職業選択の自由

⇒自己の従事する職業を決定・継続・廃止する自由[1]

     職業活動の自由(広義の職業選択の自由。職業遂行の自由。営業の自由[2]

⇒自己の選択した職業の遂行について,その営業方針を決める(価格設定,営業時間等)など,職業の態様を決める自由。

    最高裁は,①②をあわせて「職業の自由」と呼ぶことも(後述の薬事法事件〔百選92事件〕

 

(2)性格――経済的契機・社会的契機・人格的契機

 

・判例:「職業は,人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに,分業社会においては,これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し,各人が自己のもつ個性を全うすべき場として,個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものである。」(後述の「薬事法違憲判決」(百選92事件)

 

 

2.制約・規制――職業については,「自由」よりもむしろ「規制」の方が多いのでは?

 

(1)規制の根拠

 

・判例:①職業は,「本質的に社会的な,しかも主として経済的活動であって,その性質上,社会的相互関連性が大きいものであるから,職業の自由は,それ以外の憲法の保障する自由,殊にいわゆる精神的自由に比較して,公権力による規制の要請が強い」。

②経済的自由は,精神的自由と比較して,より強度の制約を受ける(二重の基準論」的発想)。221項が明文上,「公共の福祉に反しない限り」という限定をつけているのも,公権力による規制の要請が強いことのあらわれである(後述の薬事法事件〔百選92事件〕)。

     ③職業選択の自由は,その性質上,他者の権利・利益と衝突する場合が多い。そのため,

(ア)無制限な職業活動を許すと,国民の生命及び健康に対する危険が発生するおそれがあり,これに対する規制が必要な場合がある(医師業,飲食業など)。

(イ)また,憲法は,福祉国家の理念を要請しているため(25条),国家は,経済の調和のとれた発展を確保し,特に社会的・経済的弱者を保護するための政策的配慮を行う必要もある(中小企業の保護のための新規参入規制など)。

      (ア)を目的とする規制を「消極目的規制(内在的制約)」と呼び,

(イ)を目的とする規制を「積極目的規制(政策的規制)」と呼ぶ(後述します)。

・学説[3](ア)は,あらゆる人権について要請される規制(自由国家的公共の福祉:12条,13)であり,

(イ)は,特に経済的自由権(221項,292)について要請される規制(社会国家的公共の福祉)であり,22条の「公共の福祉」は(イ)を意味する(といわれているが,学説の立場はまちまちであり,また判例は,221項の公共の福祉として(ア)(イ)の両方を含めるという立場のようにも見える[4]

 

(2) 規制の類型・態様

 

ア 規制の形式に着目した分類(後述の薬事法事件〔百選92事件〕参照

 

届出制:理容師業 ⇒比較的緩やかな規制(原則:許容,例外:禁止)

許可制:風俗営業,飲食業,貸金業 ⇒比較的厳格な規制(原則:禁止,例外:許容)

資格制:医師,薬剤師,弁護士,等々

特許制:電気,ガス,鉄道,バス等の公益事業(近年,規制緩和等が進んでいる点に注意

国家独占:旧郵政事業,旧タバコ専売制

 

イ 規制の目的に着目した分類(後述の小売市場事件〔百選91事件〕・薬事法事件〔百選92事件〕参照

 

 ①消極目的規制:「社会公共の安全または秩序維持の見地」からなされる規制。

 ②積極目的規制:「社会経済の均衡の取れた調和的発展」の見地からなされる,「経済的劣位に立つ者に対する適切な保護政策」ないし「積極的な社会経済政策」としての規制。

 

 

3.合憲性の判断枠組み(違憲審査の基準)

 

(1)人権論の最重要判例――薬事法事件判決最判昭和50430,百選92事件

 

 ・視点:①最高裁が示す違憲審査基準は,何度もお話している通り,「比較衡量」して決めるという大枠のもと,「公共の福祉に合致する(正当な)目的のため必要かつ合理的な手段か否か」,という単一の基準であり,この点は,薬事法判決も同様である。

     ②そして,(a重要な権利への(b重大な制約があり,(c)国の側の裁量を尊重すべき事情が特にない場合には,目的の重要性や,手段の合理性(手段が目的にとって有用か)・必要性(目的を同程度に達成できるより制限的でない手段はあるかどうか),あるいは相当性(得られる利益と失われる利益のバランス)を,踏み込んで(厳格に)審査する,という点も,何度もお話しした通りであり,薬事法判決も同様である。

     ③すなわち,

a)職業の自由は,一方で「人格」に関わる重要な利益であるが,他方で「社会的相互関連性」もあり(「公共の福祉」が,12条・13条に加え22条で再言),一定の規制が必要だという点等から立法裁量がある,という点を出発点にしつつも,

b許可制・距離制限という手段が厳しい規制であること

c)薬局の距離制限の目的である国民の健康保護(消極目的規制)の妥当性については,専門技術的・政策的判断が不要であり,裁判所が踏み込んで審査できる

という観点から,比較的厳格な基準が採用されている。具体的には,

・目的が単に公共の福祉に合致するというだけではなく「重要」である必要がある,とされ,

・手段の合理性や必要性についても,立法事実(*)に踏み込んだ審査が行われ,

違憲判断が示されている。

     ④なお,小売市場事件判決(最判昭和471122,百選91事件では,

薬事法事件と同じく,(a)職業の自由への,(b)許可制・距離制限が問題となったが,他方でこの事件では,(c)規制の目的が,経済政策に深く関わる専門技術的・政策的判断が事案であり(積極目的規制),立法裁量が広い,

という観点から,規制の目的・手段が「明らか」に不合理かどうかというきわめて緩やかな基準が採用されて,合憲判断が示されている。

 

立法事実ある法律の合憲性を支える一般的な事実。なぜその法律が必要なのかを示す社会的な事情のこと(たとえば“医師の職業を完全に自由化すると,技術の低い医師が登場し国民の健康を害するおそれがあるため,医師の免許制という規制・法律を作った”というような事実)。この立法事実の有無(本当にこのような規制を必要とする社会的な事情があるのかどうか)について,立法者の判断=立法裁量をどれだけ尊重すべきか,裁判所がどこまで審査できるのかによって,基準の厳しさが変わる。なお,これに対し,判決の基礎に置かれる個別的・具体的な事実のことを「司法事実」という。事実認定の対象になる事実である(たとえば“この人は何年何月何日に,実際に人を殺したから,殺人罪(刑法199条)として有罪である”という事実)。

 

(2)薬事法事件と同じく「許可制」(という比較的厳しいといわれる規制)が問題となった事例

 

・公衆浴場の適正配置規制(距離制限

   ⇒最判昭和30126,百選89事件規制目的=①国民全員に浴場を行きわたらせる(積極目的に近い?)+②浴場の衛生確保・国民の健康保護(消極目的に近い?)

   ⇒最判平成元・120積極のみ? 百選89事件<解説>を参照

最判平成元・37積極消極双方?百選89事件<解説>を参照)(*これら三つの判例に共通しているのは,公衆浴場が「公共性を伴う厚生施設」だという点。積極目的か消極目的かという区別は必ずしも重要な意味を持っていない)。

 ・酒類販売の免許制

⇒最判平成41215,百選94事件(規制目的は「酒税の確保」だと判断。これが積極目的か消極目的かは明言せず,租税の徴収については立法裁量が広く認められる,という観点から比較的緩やかな基準で審査し合憲と判断。他方,その際に小売市場事件判決を引用せず(「明白」という言葉も除かれている),薬事法違憲判決を引用している(後述の「もう一歩前へ」を参照)。

 

(3)薬事法事件とは異なり(「許可制」・「許可条件としての距離制限」ではなく)「資格制」が問題となった事例

 

・司法書士の資格制

最判平成1228,百選95事件

 

(4)判例の分析

 

ア 規制の態様

 

・視点:判例において,基準の厳格度を決める一番大事な要素の1つは,規制の態様である。

・分析:①近年は,規制の「態様」の具体的な違いに着目して判断基準を精緻化しようとする

(学説) 学説が有力に主張されている[5]。たとえば,次のような立論である。

 

(ⅰ)職業選択の自由(狭義)への制限(事前の許可制など。個人の「人格」への侵害の強度が強い

x本人の資格・能力に関係しない条件による参入規制(距離制限など。客観的許可条件

⇒厳格な基準(薬事法事件判決の基準

y本人の能力・資格に関係する条件による参入規制(資格制・免許制など。主観的許可条件

xよりは緩やかだが以下の(ⅱ)よりは厳格な基準

(ⅱ)職業遂行(営業の自由への制限(個人の「人格」への侵害の強度が比較的弱い

⇒最も緩やかな基準

 

     ②学説では,(ⅱ)(ⅰ)(y(ⅰ)(xの順に,規制が「人格」に関わる度合いが大きくなり強度の規制となるため,その分だけ,その規制の合憲性を裁判所が厳しくチェックする必要が高まるといわれることもある。

     ③この理論は,ドイツの職業の自由に関する判例法理=段階理論を下敷きにした主張である。日本の最高裁がこれをそのまま取り入れているわけではない点には注意が必要だが(後述の注意点,他方で上記の薬事法判決が,“「許可制」・「距離制限」は職業の「選択」に関わる厳しい規制”だと判断したのは,この段階理論の一部と親和的な部分もある。この理論によれば,この事件での規制の態様は,上記の図の(ⅰ)(x客観的許可条件)の場面にあたると位置づけられうる(百選92事件の解説を参照)。

④また,たとえば司法書士の資格制事件百選95事件で最高裁は,薬事法判決のような詳細な理由づけや厳格な違憲審査は行わずに,司法書士の資格制を簡単に合憲と判断した。その理由について最高裁は詳しく述べていないが,これを上記の段階理論から説明することも理論上は不可能ではない。すなわち,資格制は,上記の段階理論によれば(ⅰ)(y主観的許可条件)の場面である。

⑤さらに,西陣ネクタイ事件百選93事件)では,“国内の生糸生産業者を保護するために行われた「外国産生糸の輸入制限」によって,ネクタイ用の生地を生産する業者Xらが,安い外国産の生糸を使えなくなり,他方で外国産のネクタイの輸入は制限されなかったため,その業者Xらの営業利益が大幅に下がった”ということが,Xらの職業の自由を侵害し違憲かどうかが問題となった。最高裁は,憲法論に詳しく立ち入らないまま結論を出したが,この事件での「外国産生糸の輸入制限」という規制は,上記の図の(ⅱ)遂行・営業への規制)の場面だと解することができる。

注意点:①ただし,日本の最高裁は,上記の特に「主観的許可条件」・「客観的許可条件」という区別を,明示的に採用しているわけではないことには注意のこと(たとえば酒類販売の免許(≒許可)制が問題となった諸判例のうち,免許要件として最判平成41215〔百選94事件〕では経営基礎要件が問題となり,最判平成10716集民189155では需給調整要件が問題となった。ドイツの段階理論に照らせば,前者は主観的許可条件,後者は客観的許可条件として,規制の強度が異なり裁判所の審査の厳格度は変わってしかるべきだが,最高裁の判決文は両者の違いに全く頓着していない

     ②また,時に主観的許可条件と客観的許可条件との区別基準として,自己の「意思・努力」で克服可能な条件かどうかという基準が概説書等で示されることがあるが,これは,少なくともこの理論の母国であるドイツ判例に照らすとミスリーディングな(誤解を招くおそれのある)表現なので,その点にも注意のこと。ドイツの段階理論における主観と客観の区別基準は,「意思・努力」ではなく「能力・資格」に着目した規制かどうかである[6]たとえば定年制は,「自己の努力」では左右できない「年齢」という理由で,一定の職業につくことを断念させる制度だが,ドイツ判例では客観的許可条件ではなく主観的許可条件に分類されている[7]

③いずれにしても薬事法判決が語ったのは,この主観的許可条件・客観的許可条件という区別ではなく,「事前の許可制」が職業「選択」に関わる強度な規制だという点,そして「許可条件としての距離制限」は,形式的には設置場所に対する規制(その意味では職業活動・遂行(営業)に関わる規制)だが,実質的には職業「選択」に関わる強度な規制だという点のみである。その意味で,判例上重視されているのは,職業「選択」にどれだけかかわる規制なのかどうか,という点であろう。

 

イ 規制の目的

 

・視点:①小売市場事件も薬事法事件も,同じく距離制限による許可制が問題となっており,いずれも職業の「選択」に関わる強度の規制があるといえそうな事案であるが,最高裁は,小売市場事件では極めて緩やかな基準を採用し,薬事法事件では厳格な基準を採用した。両者の違いがどこにあるのかといえば,やはり規制目的が違い,積極目的が問題となった前者では緩やかな基準となり,消極目的が問題となった後者では,原則通り厳格な基準となった,と考えられる。その意味で,規制目的も,基準の厳しさを決める際に,なお一定の意味を持っていると考えることもできる[8]

②その際,ポイントになっているのは,「積極目的」か「消極目的」か,という二分的な思考ではない。この規制目的二分論だけに依拠してしまうと,どちらにも分類しにくい事件で,何もできなくなってしまう。そうではなく,この二分論の背後にある思想,すなわち裁判所による立法事実の把握可能性である。つまり,裁判所にとって判断しやすい事件かどうか,規制を設けている国会の専門技術的・政策的判断(立法裁量)を尊重する必要がある事件かどうか,という点である[9]。典型的な積極目的の場合には,専門技術的・政策的判断が必要なため,裁判所が立ち入って審査することが難しく,他方で,典型的な消極目的の場合には,そうした専門技術的・政策的判断の必要性は少なく裁判所にとって判断するのがそれほど難しいわけではないため,前者では基準は緩やかに,後者では基準が厳格になりうる。また,酒類販売の免許制事件で問題となった「租税目的」は,積極目的・消極目的のどちらとも言いにくいが,税金に関わる問題は,専門技術性が高い問題であるため,裁判所が立ち入って判断することが難しく,立法裁量を尊重すべく比較的緩やかな基準が採用されたと考えることもできる[10]

③また,いずれにしても上記のように,薬事法判決は,この規制の目的だけでなく,規制の態様(強さ)も加味して,基準の厳しさを決めていることには注意のこと。またこの意味で,判例に対し,「規制目的だけでなく規制の態様も加味すべきだと」と主張してきた一部の日本の学説は,全く見当違いであったということになる。

 

最近の判例動向 

近時の判例(上記司法書士事件や下記①②等)は,規制の態様や規制目的などに照らして審査の厳格度を決めるという立論を行わずに,「公共の福祉に合致する目的のため必要かつ合理的な手段かを比較衡量して判断する」といういつもの判断の大枠のみを用いて結論を出すものも増えてきており,その是非も含めて近時,議論されているのでその点にも注意のこと。

 

① 京都府風俗案内所規制条例事件最判平成281215 たとえば,風俗案内所の設置等を規制する京都府の条例(距離制限等)が,その案内所を設置する業者等の職業の自由を侵害し違憲になるかが問題となった事件で最高裁は,この規制は青少年保護という「公共の福祉に合致する目的のため必要かつ合理的な規制」だと判断し,その際に営利広告の事件百選54事件,第10)と上記小売市場事件のみを引用し,薬事法判決を引用しなかった

 

② 医薬品のネット販売規制(最判令和3318 また,一定の医薬品について,その使用法の説明を薬剤師との対面で受けさせる必要があるという観点から,ネットでの販売を規制し対面販売を義務づける法令が,ネットでの医薬品の販売を行う業者の職業の自由の侵害になるかどうかが問題となった事案で最高裁は,「公共の福祉に合致する目的のため必要かつ合理的な規制といえるかどうかを比較衡量して判断する」,「この判断は第一次的には立法裁量にゆだねられるが,この裁量にも事の性質上広狭があり,規制の目的,態様,権利の性質などに照らして判断する」という一般論の部分を語る際には薬事法判決を引用しつつ,特に基準の厳格度などを決めないまま具体的検討に移った

そして,この規制が国民の健康保護という公共の福祉に合致する正当な目的をもち,安全性の評価が固まっていない一定に医薬品についてネット販売を禁止し対面販売を義務づけるという手段にも相応の合理性があり(合理性),またネット販売を許したうえで薬の仕様の説明は電話やメールで行うという(より制限的でない)やり方よりも対面販売での使用法の説明という方法は確実であり(必要性),さらにこの規制は職業選択の自由そのものに制限を加えるものであるとはいえず,職業活動の内容・態様に対する規制にとどまるものであり,その制限の程度が大きくない(相当性),等の理由から,合憲の結論を出した。その際,この事案は一見すると国民の健康保護という消極目的の事案に見えるにもかかわらず,一般に積極目的の事案だとされる小売市場事件も最高裁は引用しており,単純な規制目的二分論から判例が明確に距離を取り始めている。

 

 

参考――「規制目的二分論」の理論的当否について

 

・視点:なお,学説では,そもそもの問題として,規制目的二分論に対し賛否両論があった[11]

・賛成論:①積極目的規制は,政策的・経済的な判断に基づいてなされるため,裁判所の審査能力から考えると,裁判所が立ち入るのが困難である。これに対し消極目的規制は,生命・健康の保護ための規制であり,その必要性・合理性について裁判所が判断することは比較的容易である。

②積極目的規制は,概して経済的弱者の社会権(25条)を実現するためのものであるため,これについては立法府の裁量が認められるべきである(経済的強者の経済的自由への広範な制約であっても,合憲とされやすい)のに対し,消極目的規制は,そのような事情がないため,必要最小限度にとどまらなくてはならない。

③特に距離制限(適正配置規制)を定めている法律は,業界団体からの要請を受けて,特定の国会議員がその要請を実現すべく,競争制限・新規参入規制を設けることで,既存の業者や業界団体の既得権を保護するという不当な目的を有している恐れがある。この点,法律において「積極目的」(特定の業者を保護する)が明示的に掲げられている場合には,それが不当な競争制限なのではないのかということが,国会の中ですでに十分に議論し尽くされていると考えられる。そのため,改めてそれが違憲かどうかについて,裁判所が立ち入って審査する必要性は少ない。これに対し,「消極目的」が掲げられている法律は,「国民の健康保護」という,見た目の上では「もっともらしい」理由が挙げられている。しかしその実態は,そのもっともらしい理由を隠れみのにして,特定の業者の既得権益を保護するという不当な目的を追求している可能性が高い。そのため,このような「消極目的」が掲げられた法律の合憲性については,裁判所が立ち入って審査する必要性が高い[12]

・批判論:①この二分論によると,国民の生命・健康を守るための消極目的規制のほうが,裁判所が厳しくチェックすることになるため,違憲になりやすいということになる。これは価値観が逆転しているのではないか。

②上に見た判決からも明らかなように,消極目的・積極目的の区別は相対的であり,また,どちらに区別すべきかが明確でない規制の類型もある。



[1]  さらに,公務就任権(公務員になる権利・資格)も,職業選択の自由に含まれるとする見解もある。ただし,公務就任権の憲法上の根拠については学説上争いがあり,判例の立場も明らかではない。学説では,①職業選択の自由(221項)説のほかに,②参政権(151項)説,③幸福追求権(13条後段)説,などが主張されている。最近は①が有力である。判例は,外国人が東京都の管理職に就任できないことが問題となった事件で,外国人と日本国民との差別(141項)という観点から審査しており(結論は合憲。百選4事件),公務就任権が憲法のどの条文で保障されているのか,という問題には立ち入らなかった。

[2]  学説では,営業の自由と職業活動の自由とを区別すべきだと主張する見解もある。この見解によると,営業の自由は,国に対する個人の人権というよりも,同業者集団による独占的な営業に対抗し,自由市場を形成するという事業者・法人にとっての「公序」であり(国が同業者団体を廃止する等して市場に介入することで実現),これに対し職業活動の自由は,個人が自分の個性を活かし,「人格」を発展させ自己実現するための人権(国に介入されない個人の自由の領域)だといわれる。詳細は,石川健治「営業の自由とその規制」大石眞・石川健治編『Jurist増刊・憲法の争点』(有斐閣,2007年)148頁,岡田与好『経済的自由主義』(東京大学出版会,1987年)等。

[3] 参照,芦部信喜(高橋和之補訂)『憲法』(岩波書店,第7版,2019年)234頁以下。

[4] この点の詳細については,工藤達朗『憲法学研究』(尚学社,2009年)78頁以下を参照。

[5] 芦部・前掲書236頁以下,安西文雄ほか『憲法学読本』(有斐閣,第3版,2018年)190頁。

[6] 辻村みよ子・山元一編『概説 憲法コンメンタール』(信山社,2018年)144頁〔小山剛〕。

[7] 柴田憲司「比例原則と目的審査」法学新報12012号(2013年)201頁参照。他方で,後の授業で扱う法の下の平等(憲法141項)の分野の判例は,時に「自己の意思・努力」で左右できない事情による差別が許されるかどうかについて,裁判所は慎重(≒厳格)に審査する必要があると述べることもあり(国籍法違憲判決など),この点が混乱の原因の一つにもなっていると思われるが,この平等の分野の判例法理と,職業の自由の分野の学説(「主観的」・「客観的」条件の区別論)は,いちおう別系統の議論だと考えておくほうが無難であろう。

[8] たとえば「典型的」な積極目的規制が問題となった事案では,小売市場事件判決に従い,「積極目的規制」⇒「明白性の基準」という立論で結論を出している事案もある。最判平成5625。ただし,後述④も参照。

[9] 横大道聡編著『憲法判例の射程』(弘文堂,第2版,2020年)183頁〔赤坂幸一〕,346頁〔柴田憲司〕。

[10] この事件でも,免許制(≒許可制)という点では,薬事法事件と同じく厳しい規制が課されているが,裁判所の審査は,薬事法判決よりも緩やかになっている。その理由は,一つには,許可条件が,薬事法事件で問題となった「距離制限」のような客観的条件ではなく,「十分な経営基盤を持つこと」という主観的条件だったという点もありうるが,上記の注意点で述べた通り,この客観・主観の区別が判例法理として確立しているかは議論の余地がある。その点でもやはり,「税収確保」という規制の目的の違いも影響していると考えられる。

[11] 参照,前田徹夫「経済的自由規制立法の違憲審査基準」佐藤功先生喜寿記念『現代憲法の理論と現実』(青林書院,1993年)197頁,工藤達朗『憲法の勉強』(尚学社,1999年)233頁以下。

[12] 参照,長谷部恭男『憲法』(新世社,第7版,2018年)253頁以下。

行政活動の基準(行政法総論)

  1.はじめに (1)行政訴訟において本案上の主張を展開するときには、多くの場合、行政活動の違法を指摘することが求められます。ここで行政活動の違法とは、行政活動が法に 違 ( たが ) うことを意味します。 (2)したがって、行政活動の違法を指摘するためには、まず、その...