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2023年2月9日木曜日

行政活動の基準(行政法総論)

 1.はじめに

(1)行政訴訟において本案上の主張を展開するときには、多くの場合、行政活動の違法を指摘することが求められます。ここで行政活動の違法とは、行政活動が法に(たが)うことを意味します。

(2)したがって、行政活動の違法を指摘するためには、まず、その前提となる「法」を明らかにしなければなりません。この「法」はさまざまな形で存在しています。

(3)そこで、今回は、まず違法主張の根拠にできる法を、その存在形式に着目し、整理しておきます(一般の教科書に出てくる「行政法の法源」は、このように違法主張の際に根拠にできるルールが何かという問題を扱う項目といえます)。

(4)なお、違法主張の根拠にできる「法」以外の基準は、それが行政活動の基準として機能していたとしても、当該基準が法ではない以上、基本的に違法を主張する際の根拠にできません。

 

〇行政活動の基準の種類と実益



            「法」      →  違法主張の根拠になる


行政活動の基準で…


            「法」以外の基準 →  違法主張の根拠にならない

 

(5)しかし、そのような基準であっても、裁判実務上、一定の役割を果たすことがあり得ますので、違法主張の根拠にできない基準についても以下で取り上げ、その機能等について整理しておきます。

 

2.違法主張の根拠になりうる基準~行政活動を規律する法

(1)行政活動の違法を指摘する際に根拠にすることができる基準は、複数あります。それらは大きく成文法(=文章に成っている、その意味で目に見える法)と不文法(=文章に成っていない、その意味で目に見えない法)のグループに分けることができます。

(2)このうち成文法として挙げることができるのは、憲法条約法律命令、地方公共団体の自主法(条例および規則)です。

(3)他方、不文法として挙げることができるのは、慣習法条理法の一般原則)です。

(4)行政活動がこれらの法に抵触すれば、直ちに違法ということになります。以下、それぞれについて、やや詳しくみていくことにします。

(5)行政活動は憲法および法律に縛られ、これらに抵触すれば、当該行政活動は違法になります。この点は、特段、問題ないでしょう。

(6)条約は国家間の約定(合意)ですが、条約の中には、それが公布されると、直ちに具体的な法として執行されることが予定されているものがあります。その場合、当該条約に抵触する行政活動は違法です。

(7)命令は、行政機関が定立する、国民の権利義務に関する法です。行政機関が定立する基準は、後述するように、そのすべてが国民の権利義務に関わる法ではありませんから、この点について注意が必要です。

(8)地方公共団体が自主的に定める法として、条例と規則があります。このうち条例は地方公共団体の議会が制定する法です。これに対し、規則は地方公共団体の執行機関(首長、教育委員会、選挙管理委員会など)が定立する法です。この規則は、後述する講学上の行政規則とは別の概念ですので、混同しないようにしましょう。

 

〇地方公共団体の自主法

種類

制定機関

条例

地方公共団体の議事機関(議会)

規則

地方公共団体の執行機関

 

(9)不文法のうち慣習法は、慣習が法的確信を得て成立した法です。単に慣習として定着しているだけでは不十分で、法的確信が伴わなければ、慣習法としては認められません。たとえば、公水を使用する権利は、慣習法上の権利として認められています。

(10)条理は、通常、ものごとの道理などと説明されますが、行政法では、そのうちいくつかのものが「法の一般原則」として説明されています。

(11)具体的には、比例原則平等原則信義則などがあります。

(12)これらの法の一般原則は行政法の事案分析に際して用いられることが少なくありませんので、以下では、①信義則および②比例原則について取り上げることにします(平等原則は憲法分野に委ねることにします)。

 

3.信義則

(1)法治主義(およびその具体化としての「法律による行政の原理」)によれば、行政機関は法律にしたがって行動しなければいけません。

(2)しかし、行政活動を行うのは生身の人間(公務員)なので、間違ったこと(=違法なこと)を国民・住民に伝えることもあります。

(3)仮に、国民・住民が行政機関から言われたことを信じて行動したとしましょう(行政機関からの違法なアドバイスに従った行動なので、国民・住民の行動もまた違法になります。)。この場合、行政機関が後になって、その違法性に気付き、国民・住民の違法な行動に対して不利益を課すことがあり得ます。

(4)実際に、不利益が課されれば、国民・住民は納得がいかないでしょう。なぜなら、国民・住民は行政機関から言われたとおりに行動したに過ぎないからです。

(5)この問題は、「法律に即して行政活動を行うべきだ」とする行政側の見方(法治主義・法律による行政の原理を重視する見方)と「行政機関の言ったことにしたがった行動は保護されるべきだ」という国民・住民側の見方(信義則を重視する見方)の調整の問題といえます。

 

法治主義・法律による行政の原理 VS 信義則

 

(6)ここで、信義則とは、法律生活において、人が相手方の合理的な期待や信頼を裏切ってはならないという意味内容をもつ一般的なルール(法の一般原則)であり、このことは、民法12項でも規律されています。

 

民法12項:権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

 

(7)かつては、行政法の分野で、このような私法の世界におけるルールを妥当させてよいのかという議論がありましたが、現在では、行政法の領域でも、信義則の適用がありうるということについて、特段異論はありません。

(8)むしろ、現在、問題となっているのは、信義則が行政法の分野にも適用しうることを前提に、どのような要件が充足されれば、信義則が適用され、国民・住民が保護されるのか、ということです。

(9)この点、最判昭和621030事件〔酒屋青色承認申請懈怠事件〕は、行政法関係(租税法関係)における信義則の適用について、次のように述べています。

 

租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、右課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。そして、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たつては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、のちに右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになつたものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであるといわなければならない。

 

(10)この判決によれば、行政上の法律関係の一類型である租税法関係において信義則が適用されるのは「特別の事情」がある場合で、その特別な事情の存否は、①税務官庁によって公的見解が表示されたこと、②納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動をとったこと、③そのことにより納税者が経済的不利益を受けることになったこと、④納税者が信頼に基づいて行動したことにつき、納税者側に帰責事由がないことによって判断される。

(11)このような信義則適用の基準は、租税法関係のみならず、一般の行政法関係においても、一定程度有効であると考えられます。

 

4.比例原則

(1)比例原則とは、行政機関が用いる手段は行政目的に照らして均衡のとれたものでなければならないとする原則です。

(2)この原則は、目的と手段の均衡を求める原則であり、たとえばドイツでは「スズメを大砲で撃ち落としてはならない」といった説明がされています。

(3)この原則は他の法分野でも通用していますが、行政法の世界では、例えば次のように用いられます。

(4)生活保護法は、自動車運転禁止の指示によって生じた義務に違反した者に対し、行政機関が生活保護の「変更」(=生活保護費の額を減らす等の措置)、「停止」(=一定期間、生活保護費を支給しない等の措置)、「廃止」(=生活保護をやめてしまう措置)のいずれかをすることができるとしています。

 

生活保護法623項:保護の実施機関は、被保護者が前二項の規定による義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる。

 

(5)仮に、一度だけ、自動車運転をしてしまった生活保護者がいたとして、この者に対して、生活保護を「廃止」する旨の決定を行うことは、比例原則違反であり、違法であるといえます。

(6)なぜなら、その程度の軽い義務違反なら、「廃止」よりは不利益の程度が軽い「変更」や、「停止」といった処分のほうが適当といえそうですし、もっといえば、「この次から自動車運転をしないよう気を付けてください」といった内容の「行政指導」のほうが適当といえるからです。

 

5.法律による行政の原理 

(1)以上の法の一般原則は行政法に固有の原則というわけではなく、他の法分野でも妥当する原則です。これに対し、行政法分野に特化した、いわば行政法上の一般原則があり、それが法律による行政の原理です。

(2)これは、不文法として捉えられることもありますが、成文法(とりわけ憲法)の解釈を通じて導き出すこともできます。

(3)それでは、この法律による行政の原理は、具体的に、いかなる内容を有しているでしょうか。

(4)この点について、従来は、①「法律の法規創造力の原則」、②「法律の優位の原則」、③「法律の留保の原則」があると指摘されてきました。

(5)まず、「法律の法規創造力の原則」ですが、これは、法律のみが法規を定立することができる、ということを内容とする原則です。ここで、法規とは、単なる規範ではなく、国民の権利義務に関係する一般的規律のことです。例えば、「晴れた日のお昼休みには役所内の電灯を消すこと」という役所内のルールは、国民の権利義務に関係するルールではありませんから、法規の内容を含まない、と言えます。

この原則は、憲法41条によって承認されていると言えます。

 

憲法41条:国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。

 

 (6)次に、「法律の優位の原則」ですが、これは、いかなる行政活動も、法律の定めに違反してはならない、ということを内容とする原則です。

 したがって、法律の定めに違反した行政活動は、この原則に照らして、違法である、ということになります。

(7)最後に、「法律の留保の原則」とは、一定の行政分野においては、法律によって一定の要件のもとに一定の行為をするよう授権されていなければ、行政権の行使はできない、ということを内容とする原則です。

(8)それでは、そこでいう一定の分野とは、いかなる分野のことを指すのでしょうか。

(9)この点、学説は分かれます。代表的なものを挙げておきましょう。

 

侵害留保説:国民の権利・自由を侵害する行政活動について、法律の授権を要する。

全部留保説:国民の権利・義務に関わる行政活動については、法律の授権を要する。

社会留保説:国民の権利・自由を侵害する行政活動および社会権の確保を目的として行われる行政活動について、法律の授権を要する。

権力留保説:行政活動のうち、権力的作用について、法律の授権を要する。

本質(重要事項)留保説:国民の基本的人権に関わりのある重要な行政活動の基本的内容については法律の授権を要する。

 

(10)上記の考え方のうち、①侵害留保説は明治憲法下での通説であり、現在でも実務ではこの考え方が採られているといわれます。

(11)いかなる考え方を採るにせよ、法律の根拠がなければ行政活動を行いえないのに(その範囲は各学説によって異なる)、法律の根拠なくして、行政活動が実際に行われれば、当該行政活動は違法といえます。

 

6.違法主張の根拠になりえない基準?~行政立法

(1)伝統的に、行政機関が行政活動を行うために定立する規範を行政立法と呼んできました。

(2)それでは行政立法に違反して行われた行政活動は違法といえるでしょうか。ここでは行政立法が違法主張の根拠になるか、問題になります。

(3)行政立法もルールですから、ルール違反であれば、違法の主張が可能なようにも思えます。しかし、そのような主張が適切にできるか否かは、行政立法の種類によります。

(4)行政機関が定める行政立法には法規命令行政規則があります。両者は、法規(単なる規範ではなく、国民の権利義務に関する規範)としての性格をもつか否かという点で異なります。法規命令は法規としての性格を持ち、他方、行政規則は法規としての性格をもちません。

(5)結論を先取りすれば、このうち行政規則は基本的に違法主張の根拠として用いることができません。つまり、基本的に行政規則違反をもって違法とはいえないのです。この点について、法規命令と行政規則の特徴を明らかにしたうえで、以下、説明することにします。

 

〇行政立法の種類

                     違法主張の根拠

              法規命令  →  〇

       行政立法

              行政規則  →  ×

 

(6)まず、法規命令は法規としての性格をもちますので、国民は法規命令に法的に拘束されることになります。

(7)また、法規である以上、裁判所は法的判断の拠り所にすることができますから、法規命令は裁判規範として機能することになります。

(8)さらに、法規である以上、法律の法規創造力の原則により、その源泉は法律でなければならないので、行政機関が法規命令を定める場合には、法律の根拠が必要です。

(9)なお、違法主張の根拠になるものとして上述した「命令」は、法規命令と同視することができます。

(10)次に、行政規則は法規としての性格をもちません。

(11)このような行政規則の代表的なものとして、行政機関が事務処理を適切に行うため、行政組織の内部の機関に向けて定立する規範があります。そのような規範は行政組織の内部でのみ妥当する規範ですので、行政組織の外部にいる一般の国民は何ら法的に拘束されません。また、行政組織の外部にいる裁判所も何ら法的に拘束されません。そのため、当該規範は、裁判規範として機能しないことになります。さらに、行政内部でのみ妥当する規範であれば、わざわざ国民議会のコントロールを及ぼす必要もありませんので、法律の根拠も不要と考えられます。

(12)そのほか、行政規則の代表的なものとして従来、考えられてきたものに、行政組織それ自体に関する規範があります。行政組織をどのように組み立てるかにかかわる規範は、行政組織の内部に関する規範ですから、行政組織の外部にいる国民や、裁判所は何ら法的に影響を受けません。そのため、上記の行政組織の内部の機関に向けて発せられる規範と同様に、やはり、このような行政組織に関する規範にも、国民が法的に拘束されることはありません。また、当該規範は裁判規範として機能することもなければ、法律の根拠も不要です。

 


 

○法規命令と行政規則の差異

種類

法規性

国民への法的拘束力

裁判規範性

法律の根拠

法規命令

必要

行政規則

×

×

×

不要

 

(13)このような両者の特質から明らかですが、法規命令は違法主張の根拠にすることができるのに対し、行政規則は違法主張の根拠にすることができないといえます。

(14)そうすると、行政機関によって定立された規範が法規命令なのか、行政規則なのかを判別できるようにしておく必要があります。

(15)この点につき、両者は法規性を有するか否かによって区別されるといえるのですが、それでは、法規性を有するか否かは、どのような視点でもって、判別されるのでしょうか。次の二つが代表的な視点といえます。

(16)第一は、当該規範が内部規範か否かという視点です。行政組織の内部に向けて発せられた規範は、内部規範に止まるため、行政組織の外部にいる国民や住民の権利義務に関する規範を内容として含みません。そのような内部規範として捉えられてきたものに、通達(=上級行政機関が下級行政機関に対して指揮監督権に基づき、権限行使又は事務処理に関して発する命令))があり、通達は行政規則として理解されています。

(12)第二は、法律上の根拠があって定められているかという視点です。法律の法規創造力の原則からして、法律に根拠がなければ、いくら国民の権利義務に関する規範のようにみえても、それは法規たりえません。したがって、そのような場合は法規を内容として含まないということになります。このような理解を踏まえると、法律上の根拠がない、いわゆる要綱などは行政規則ということになります。

 

7.違法主張の根拠になりえない基準~行政計画

(1)行政計画もまた、行政活動の基準として機能しています。

(2)行政計画の定義はさまざまですが、一般に①目標設定と②手段の総合性が定義の内容に含まれています。

 たとえば原田尚彦は「公共事業その他行政活動を行うに先立ち、行政庁が提示する具体的な行政目標となる青写真(上記①の要素)とこれを実現するための諸施策(上記②の要素)を体系的に提示したプログラム」と定義しています。

(3)このような行政計画の例としては、国土総合開発計画、道路整備計画、防災計画、地域医療計画などがあります。このように行政計画には色々な計画があります。

(4)また、それらは色々な角度から分類することができます。ここでは、さしあたり、国民に対する法的な拘束力を有するか否かという観点から拘束的計画と非拘束的計画に区別することができる、ということをおさえておきましょう。

(6)この拘束的計画は非拘束的計画に比べ圧倒的に少ないため、一般論として、行政計画は国民を拘束しない(=法効果性を有しない)、と捉えられています。

(7)そのため、一般に、行政計画は行政規則と同様、違法主張の根拠にはなりえない基準として捉えることになります。

行政活動の基準(行政法総論)

  1.はじめに (1)行政訴訟において本案上の主張を展開するときには、多くの場合、行政活動の違法を指摘することが求められます。ここで行政活動の違法とは、行政活動が法に 違 ( たが ) うことを意味します。 (2)したがって、行政活動の違法を指摘するためには、まず、その...