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2022年1月18日火曜日

行政法―行政と法

1.行政法とは

(1)「民法」や「刑法」という法律科目では、「民法」という名前の法律や、「刑法」という名前の法律が存在します。ところが、「行政法」という法律科目の場合、「行政法」という名前の法律は存在しません。

  そこで、まず「行政法」とは何かということについて考えてみましょう。

(2)この点、さしあたっては、行政法とは「行政」に関する「法」である、と理解しておけば十分です。

(3)ここで「行政」とは、国土交通省や厚生労働省といった国の省庁が、あるいは、都道府県庁や市町村のお役所が日頃行っている色々な活動のことを指す、とさしあたり理解しておいてよいでしょう。

(4)他方、「法」は、ルール(憲法や法律など、色々な形式で存在しています)である、と一応理解しておきましょう。

 

2.行政法上の登場人物

(1)これら行政に関する多くのルールは、「ある人」と「ある人」の関係を規律しています。

(2)それでは、そこでいう「ある人」とは、どのような人でしょうか。これは、法関係の当事者になることのできる人は誰なのか、という問題でもあります。

(3)ちなみに、民法の世界では、法関係の当事者になることができるのは、①自然人と②法人です。

(4)行政法の世界でも、このことは妥当します。しかし、行政法の世界では、それらの言葉をそのまま用いることはあまりありません。

(5)まず、①自然人についてですが、行政法の世界で「国民」という言葉や「住民」という言葉が出てきたら、そこでは、多くの場合、自然人のことが念頭に置かれていると思ってください。

(6)次に、②法人については、行政主体(あるいは行政体)という言葉が用いられます。この行政主体の具体例としては、国や地方公共団体(都道府県・市町村など)があります。つまり、国や地方公共団体は法人である、ということです(参照、地方自治法21項)。

 

地方自治法2条1項:地方公共団体は、法人とする。

 

(7)この行政主体については、もう少し詳しくみていくことにしましょう。

行政主体は、組織体です。つまり、行政主体は、いくつかのパーツから成り立っています。それらのパーツのことを専門用語で行政機関といいます。

行政主体は先に指摘した通り、法人(法の世界における人)ですから、人に喩えることができます。人は頭のパーツ、手足のパーツなどからなっています。つまり、これらのパーツのことを行政機関というわけです。

(8)行政主体のパーツの中でも人の頭の部分にあたるパーツのことを専門用語で行政庁といいます。

  行政庁とは、行政主体の意思を決定し、外部に表示する権限をもつ行政機関のことをいいます。

具体的には、各省大臣、都道府県知事、市町村長などがこれに該当します。

 

3.行政上の法関係と行政法の体系

(1)このように、行政法上の登場人物は複数います。それらの人相互間で法関係は成り立ちますから、行政上の法関係は多様であるということがいえます。

(2)もっとも、行政法の勉強をはじめるにあたっては、「行政主体・行政庁」と「国民・住民」の関係に着目するのが適当です。

(3)この関係は、行政主体・行政庁を基準にして考えると、「行政」と「行政組織の外部にいる人」(=国民・住民)との関係なので、この関係を規律する法を外部法と呼び、その関係を外部法関係と呼ぶことがあります。

(4)この外部法関係において、行政主体・行政庁が国民・住民に働きかけて、一定の作用を及ぼすことがあります。この作用を法的に考察する分野、これを行政作用法の分野といいます。

(5)これに対し、その作用に不満がある場合、その反作用として、国民あるいは住民は救済を求めます。この救済方法を法的に考察する分野、それが行政救済法の分野です。

(6)そのほかに、行政の組織や行政内部の関係を法的に考察する分野もあります。これを行政組織法の分野といいます。

  この関係では、基本的に行政組織の内部における関係が問題となるので、内部法関係と呼ばれることがあります。

(7)以上を要するに、行政法は、①行政組織法、②行政作用法、③行政救済法という3つの分野から成っているということがいえます。①は内部法の分野、②および③は外部法の分野です。

(8)このうち重要なのは②および③の外部法の分野です。


4.行政救済法の体系

(1)行政救済法の分野では、ある行政作用によって国民の権利・利益が侵されたときに、それを救済するための手段を学ぶことになります。

   行政救済法という名前が付されていても、そこで学ぶのは、行政を救済する手段ではなく、国民を救済する手段である、ということに注意しましょう。

(2)以下、上記の各分野が相互にどのような関係にあるのか、明らかにすることにします。

 

5.国家補償と行政争訟

(1)行政救済法の分野は、まず国家補償の分野と行政争訟の分野にわかれます。

(2)この両者は、主にどのような救済を求めるか、ということによって区別されます。つまり、

国家補償の分野→基本的にお金を支払ってもらうことによって救済してもらおう!

行政争訟の分野→自己に有利な判断に変更してもらうことによって救済してもらおう!

ということです。

(3)この点に関する理解を深めるため、1つの事例を示すことにしましょう。

 

  Aさんは、食品衛生法上の許可を得て、ラーメン屋を営業していました。あるとき、「Aさんのラーメン屋で食中毒が起きた」という噂が流れ、これを聞きつけた当局は、真実を確かめることもせず、Aさんに与えていた許可を取り消しました。

 

(4)上記の例では、Aさんの救済方法として、大きく2つのことが考えられます。

   まず、Aさんは許可を取り消されて営業ができなくなっているわけですから、収入がありません。その分のお金を支払ってもらえれば、それがAさんの救済となります。この救済の方法については、国家補償の分野で取り上げられます。

   次に、このままでは、Aさんはいつまでたってもラーメン屋の営業ができません。そこで、許可の取消しという行為をなかったことにしてもらうということが考えられます。仮にこれが実現されれば、従前の法状態に戻る、つまり営業許可を与えられているのと同じ状態になるわけですから、これもAさんにとっては救済となります。このような救済は行政争訟の分野で取り上げられます。

(5)以上のことをやや難しくいうと、基本的に、国家補償は結果の補填を、行政争訟は行為(不作為を含む)の統制を目的とした分野であるといえます。

 

6.国家補償法

(1)国家補償の分野は、さらに損失補償の分野と国家賠償の分野に区別されます。

(2)この違いは、国民に損をさせた行政の行為(原因行為)が適法な行為だったのか、それとも違法な行為だったのか、という点にあります。

(3)原因行為が適法であったにも拘わらず、国民が損をしている場合、それは損失補償の分野で取り上げられます。

(4)他方、原因行為が違法であったことによって、国民が損をしている場合、それは損害賠償の分野で取り上げられます。

(5)上記の例では、当局の行為が勘違いという違法な行為ですので、損失補償ではなく、損害賠償が問題となるわけです。

(6)なお、国家賠償に関しては、「国家賠償法」という一般法があります。他方、損失補償に関しては、そのような一般法は存在しません。

 

〇損失法と国家賠償の違い

 

損失補償

国家賠償

原因行為

適法な行為

違法な行為

法律

個別法

国家賠償法

 

7.行政争訟

(1)行政争訟の分野は、さらに行政不服申立ての分野と行政訴訟の分野に区別されます。

(2)この両者は複数の点で異なりますので、その点を表にしてまとめておきましょう。

 

 

行政不服申立て

行政訴訟

審理の主体

行政府に属する機関

司法府に属する機関(=裁判所)

審査の対象

違法性+不当性

違法性のみ

根拠法

「行政不服審査法」

「行政事件訴訟法」

 

(3)なお、審査の対象となる「違法性」とは、という基準に反することであり、「不当性」とは公の利益公益という基準に反することです。

司法機関は「法」を司る機関であって、「公益」を司る機関ではないので、裁判所が審理の主体になる行政訴訟の場合は、審査の範囲が違法性に限定されます。

 

8.訴訟の流れ

(1)以上のように行政上の紛争を解決する方法は様々ですが、中心となるのは、紛争解決の主体として司法機関(裁判所)が関わることになる訴訟です。

(2)そこで、行政紛争を解決するために用いられる民事訴訟および行政訴訟を念頭に、訴訟の基本的な流れを確認しておきます。

(3)訴訟は原告が裁判所に訴えを提起することによって始まります。原告から訴状を受け取った裁判所は、審理をして、最終的に結論(判決)を出します。

(4)このような訴えの提起審理判決という流れが裁判の基本です。

(5)しかし、ここで注意をしなければいけないのは、裁判所が行う審理には、二種類の審理がある、という点です。

(6)第一に要件審理と呼ばれる審理があります。裁判所は原告の請求に理由があるか否かを判断しますが、法律は、裁判所が、そのような判断を行うための前提となる条件を定めています。この条件のことを訴訟要件と呼び、要件審理では、この訴訟要件が充足されているかどうかを審理します。具体的に、どのような訴訟要件があるかという点については、行政救済法の分野で学ぶことになります。

(7)仮に、この訴訟要件が充足されていないと裁判所が判断すれば、却下判決が出されます。

(8)逆に、訴訟要件が充足されていると裁判所が判断すれば、次のステップ(本案審理)に進むことになります。

(9)第二に、本案審理と呼ばれる審理があります。この本案審理では、裁判所は原告の請求に理由があるかないかを審理します。この審理は、法律が定めた原告勝訴の条件(この条件を本案勝訴要件といいます)が満たされているか否かの審理です。

(10)仮に、原告の請求に理由がある(=本案勝訴要件が充足されている)と裁判所が判断すれば、請求認容判決(=勝訴判決)が出されます。

(11)逆に、原告の請求に理由がない(=本案勝訴要件が充足されていない)と裁判所が判断すれば、請求棄却判決(=敗訴判決)が出されます。


9.法曹にとっての行政作用法の意義

(1)ここまでお話してきたことを前提にして、法曹にとっての行政作用法の意義について確認しておきましょう。

(2)仮に行政作用に対して不満を持ち、行政との間で紛争を抱えている人がいたとします。そのような人から依頼を受けた弁護士は、当該紛争を解決するために、どのような訴訟を提起したらよいか、判断できなければいけません。

(2)また、適切な訴訟が何かわかったとして、当該訴訟を提起したとしたら、原告側弁護士は、訴訟要件が充足されていること、さらに本案勝訴要件が充足されていることを主張していかなければいけません。

(3)そうすると、行政法を学ぶ際に法曹志望の学生の皆さんが目標とすべき到達点は、主に次の3つということになります。

 

①争訟形式(手段)の選択を適切にできること

②本案前の主張(=訴訟要件が充足されていることの主張)を適切にできること

③本案上の主張(=行政活動が法定要件に違反していることの主張)を適切にできること

 

(4)このうち①及び②は行政救済法分野の問題ですが、③は行政作用法分野の問題です。

(5)つまり、行政作用法分野というのは、本案上の主張に係る有益な知識や考え方を学ぶ分野であると指摘することができます。

(6)したがって、皆さんは行政作用法の教科書を読むときには、そこに書いてあることが、本案上の主張をする際に、どのように活きてくるのかということを意識しながら読み進めるとよいでしょう。

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